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東京地方裁判所 平成9年(ワ)18136号 判決 1999年3月29日

原告

右訴訟代理人弁護士

羽島徹夫

小川英郎

被告

シティトラスト信託銀行株式会社

右代表者代表取締役

被告

シティバンク・エヌ・エイ

右日本における代表者

右両名訴訟代理人弁護士

小杉丈夫

加藤君人

中村千之

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  主位的請求

被告らは各自、原告に対し、二五〇万七三三九円及び右金員に対する平成九年四月一日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  予備的請求

被告シティトラスト信託銀行株式会社は、原告に対し、三二〇万七五〇〇円及び右金員に対する平成九年四月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、被告シティトラスト信託銀行株式会社(以下「被告信託会社」という。)による実績配当型金銭信託であるシティプラネット2(以下「本件金銭信託」という。)の募集につき原告が二五〇〇万円の申込みをし、同額を被告信託会社に支払ったが、右申込みは、被告信託会社が、本件金銭信託に為替リスクがないとの虚偽の説明をしたことに因るとして、原告が、被告信託会社及び同社の親会社で被告信託会社の営業に加担したとする被告シティバンク・エヌ・エイ(以下「被告シティバンク」という。)に対し、主位的に不法行為に基づく損害賠償を求め、予備的に、被告信託会社が原告に対し、本件金銭信託につき為替リスクを回避することを約したのに、被告信託会社は為替リスクの回避をしなかったとして、原告が被告信託会社に対し債務不履行に基づく損害賠償を求める事案である。

一  争いのない事実等

1  被告信託会社は、信託期間を平成六年四月一日から平成九年三月三一日までの三年間、右期間中の収益分配は行わず、右期間終了時に収益分配金を一括して被告信託会社が顧客に支払うとの約定の円建ての実績配当型金銭信託である本件金銭信託の申込みを、平成六年二月一四日から同年三月三一日までの間、募集した。

原告は、右募集に応じて、二五〇〇万円の申込みをし、同額を被告信託会社に支払った。

右申込みに際し、原告は、平成六年二月七日、被告信託会社の店舗において被告信託会社従業員である訴外C(以下「訴外C」という。)及び同D(以下「訴外D」という。)から、本件金銭信託につき説明を受け、更に、平成六年二月一〇日、訴外Cと信濃町の喫茶店において会い、募集期間の前であったが、本件金銭信託の申込書(≪証拠省略≫)に署名押印して訴外Cに交付した。

(争いがない。)

2  被告信託会社は、平成五年一〇月六日、日本経済新聞に、「『もっと、有利な金融商品がどこかにあるはずだ。』とお考えの資産家の方へ」「シティのプライベートバンキングは金融情報のみならず、国内、海外を問わない高い実績を誇る様々な商品情報を提供し、経験豊かな投資アドバイザーが積極的に資産形成のお手伝いをしています。上記の商品は世界の投資家の間で人気の商品です。たとえ外貨建てであっても、為替リスクをヘッジすれば、既存の国内商品よりも高い利回りを実現することが可能です。」と記載され、五つの金融商品名と年実績利回りが記載された広告(≪証拠省略≫)を掲載した。

被告信託会社は、平成六年二月一四日、日本経済新聞に、「シティトラスト信託銀行『実績配当型金銭信託』第2回募集のお知らせ」「昨年7月に募集いたしました円建て実績配当型金銭信託[シティプラネット」の中間運用利回りは、以下の通り順調に推移しております。ご好評につき、このたび第2回目の募集を行う運びとなりました。今回も前回と同じポートフォリオマネージャーが担当し、信託財産の安全運用を目指します。」「シティプラネットの運用方針 安全性を最優先した[国際分散投資]『シティプラネットはシティコープの強力な国際金融情報網を活用し、金利・為替の動向を的確にとらえた[国際分散投資]を行っているのが特長です。安全性に留意しながら、信託財産の一部をアジア、欧米諸国など海外で運用することにより高い実績をおさめることに成功しています。』」「前回募集商品の年換算利回り九・二二% *上記は過去の実績を示したものであり将来の実績を保証するものではありません」と記載された広告(≪証拠省略≫)を掲載した。

(争いがない。)

3  本件金銭信託の信託期間終了後の収益分配は元本一万円あたり九三・八三円であった。したがって、収益分配金は低額ではあったが、原告が信託期間終了後に被告信託会社から受け取る金員が二五〇〇万円を下回る、いわゆる元金割れにはならなかった。

(争いがない。)

被告信託会社は、本件金銭信託につき、投資した外貨建資産に対する為替リスクのヘッジ措置を平成六年四月から一年間は、全くとらないことはなかったが、外貨建資産につき為替リスクのヘッジ措置をとる割合は二パーセント程度であった。平成七年四月からは、外貨建資産につき為替リスクのヘッジ措置をとる割合が高まったが、それでも一〇〇パーセントではなかった。

(≪証拠省略≫、弁論の全趣旨)

二  争点

1  被告信託会社は、本件金銭信託に為替リスクがあることにつき説明すべき注意義務があったのに、原告に為替リスクがあることを伝えず、逆に本件金銭信託に為替リスクがないとの虚偽の説明をしたことに因り、不法行為責任を負うか。

原告は、この点につき、本件金銭信託には為替リスクがあるのに、被告信託会社の日本経済新聞への広告(≪証拠省略≫)、被告信託会社作成の、シティプラネットの第一回募集に際してのパンフレット(≪証拠省略≫)及び訴外Cの虚偽の説明により、原告は本件金銭信託に為替リスクがないものと誤信して、本件金銭信託の申込みをしたものであるから、被告信託会社は説明義務違反による不法行為責任を負うと主張する。

2  被告信託会社に不法行為責任があるとして、被告シティバンクも共同して右不法行為をなした事実があるか。

原告は、この点につき、被告シティバンクは被告信託会社と一体となって、原告に違法な勧誘をしたと主張する。

3  被告信託会社が、原告に対し、本件金銭信託につき為替リスクのヘッジ措置をとり、為替リスクをなくすることを約したのに、その措置をとらなかった事実があるか。

原告は、この点につき、被告信託会社は、原告に対し、本件金銭信託につき為替リスクのヘッジ措置をとって為替リスクをなくすることを約したのに、その措置をとらなかったのであるから、被告信託会社は債務不履行責任を負うと主張する。

一方、被告信託会社は、本件金銭信託につき、投資した外貨建資産のすべてに為替リスクのヘッジ措置をすることを合意した事実はないと主張する。

4  損害額

原告は、不法行為に因る損害額につき、国内の定期預金に、金利年二・六五パーセントで三年間預金したときと、原告が被告信託会社より受け取った収益分配金との差額一七九万九八三九円、被告信託会社が本件金銭信託により報酬として受け取った一〇三七万円のうち原告の申込額二五〇〇万円に相当する二〇万七五〇〇円及び弁護士費用相当額五〇万円の合計二五〇万七三三九円であると主張し、債務不履行に因る損害額につき、実際の運用益と、投資した外貨建資産のすべてに為替リスクのヘッジ措置をとったと仮定したときの差額二五〇万円、被告信託会社が本件金銭信託により報酬として受け取った一〇三七万円のうち原告の申込額二五〇〇万円に相当する二〇万七五〇〇円及び弁護士費用相当額五〇万円の合計三二〇万七五〇〇円であると主張する。

第三争点に対する判断

一  証拠(≪証拠省略≫、証人C、同E、原告本人、弁論の全趣旨)によれば、次の事実が認められる。

1  原告は、≪証拠省略≫の広告を見て、外資系の銀行の金融商品の購入に関心を持ち、≪証拠省略≫の広告を切り抜いて保管した。原告は、平成六年に入ってから、被告信託会社に架電をしたところ、訴外Cから来店を勧められたので、平成六年二月七日、被告信託会社の店舗へ赴いた。原告は、訴外C及び訴外Dに対し、被告信託会社の金融商品についての説明を求め、持参した広告の切り抜き(≪証拠省略≫)を見せ、近々国内資本の銀行に預金した定期預金が満期になるなどと言った。訴外C及び訴外Dは、原告に対し、本件金銭信託などの被告信託会社の金融商品を勧めた。

原告は、訴外Cからの架電により、平成六年二月一〇日に、信濃町の喫茶店で訴外Cと会った。原告は、右喫茶店において、申込金額合計二五〇〇万円の本件金銭信託の申込書三通(≪証拠省略≫)に署名押印して、訴外Cに渡した。

訴外Cまたは訴外Dは、原告に対し、平成六年二月七日か一〇日に、被告信託会社が平成五年七月一日から平成五年七月二九日まで募集した金銭信託であるシティプラネットのパンフレット(≪証拠省略≫)を交付した。訴外Cまたは訴外Dが、本件金銭信託ではなく、既に募集期間終了後のシティプラネットのパンフレットを原告に交付したのは、本件金銭信託の募集期間の前で、本件金銭信託のパンフレットができていなかったので、本件金銭信託と同一の金銭信託であるシティプラネットのパンフレットを交付したからである。原告は、≪証拠省略≫を渡されたとき、数分間黙読した。

原告は、訴外Cから平成六年二月一四日に日本経済新聞に本件金銭信託の広告が出ることを聞いていたので、同日、右広告を読んだ。

原告は、平成六年二月一四日、本件金銭信託の申込金として二五〇〇万円を被告信託会社へ送金した。

2  被告信託会社による、本件金銭信託の為替差損の回避、言い換えれば為替リスクのヘッジは、先物為替によりなされた。先物為替とは、予約した日から一定期間後に外貨を、予約時に決められた為替相場で、売買するものである。例えば、被告信託会社が、一年間の米ドル建て定期預金に投資したときは、一年後に米ドルを売却し円を受け取るという為替の先物取引で為替差損を回避するのである。しかしながら、先物為替には、慨ね右一定期間の外貨の金利と円の金利の差分の費用の支出を余儀なくされる。言い換えれば先物為替には、コストがかかる。例えば米ドルの金利が年六パーセントで円の金利が年三パーセントであれば、元金に右金利差である年三パーセントの割合を掛けた額に右一定期間を掛けた額の支出を余儀なくされるのである。

3  原告は、翻訳を業としているが、同志社大学経済学部を卒業しており、昭和三八年から一年間アメリカ合衆国のアリゾナ州立大学に留学したこともある。

二  パンフレット(≪証拠省略≫)には、「三〇〇万円から…気軽に世界の好利回り商品へ。」と他の文字より大きな文字での記載があり、「低金利時代に彗星のように登場した、この<シティプラネット>。今まで参加しにくかった海外の金融市場や、さまざまな好利回り商品にアクセスしやすくなりました。」との記載があること、新聞広告(≪証拠省略≫)には、争いのない事実等2項記載のとおり、「金利・為替の動向を的確にとらえた[国際分散投資]を行っているのが特長です。」「信託財産の一部をアジア、欧米諸国など海外で運用することにより高い実績をおさめることに成功しています。」との記載があり、一1項のとおり、原告は≪証拠省略≫を読んでいることからすれば、原告が本件金銭信託の申込み時に、本件金銭信託が、外貨建預金、外貨建公社債等の外貨建資産にも投資することを認識していたことが認められる。そして、原告は、原告本人尋問において、外貨建預金に為替リスクがあることは常識であると供述しており、一3項のとおり原告にはアメリカ合衆国への留学の経験があることからすれば、原告が、本件金銭信託が外貨建資産にも投資することを認識していたということは、為替差損を回避、言い換えれば為替リスクをヘッジするかは格別、本件金銭信託には為替差損、為替リスクの問題があることを認識していたものと認められる。したがって、本件においては、被告信託会社が、原告に、為替リスクがあることを伝えたかどうかは問題にはならず、問題となるのは、被告信託会社の新聞広告(≪証拠省略≫)、パンフレット(≪証拠省略≫)あるいは訴外Cの説明が、原告に本件金銭信託は為替リスクのヘッジがなされることに因り、結果的に為替リスクがなくなるものと誤信させるおそれがあるものかとの点である。本件金銭信託につき、実際は、投資した外貨建資産の一部につき為替リスクのヘッジをするが、外貨建資産のすべてにつき為替リスクのヘッジをしないのに、すべてにつき為替リスクのヘッジをするかのような誤信を顧客に与えないようにすべき注意義務が被告信託会社にあるのは当然である。

三1  ≪証拠省略≫は、争いのない事実等2項記載のとおり、被告信託会社の金融商品全体の広告であり、本件金銭信託あるいは本件金銭信託と同一の金銭信託であるシティプラネットに限定した広告ではなく、しかも≪証拠省略≫に記載されている五つの金融商品のうちにシティプラネットは含まれていない。更に、≪証拠省略≫には、「たとえ外貨建てであっても、為替リスクをヘッジすれば、既存の国内商品よりも高い利回りを実現することが可能です。」と記載されており、右記載は、外貨建の金融商品であっても為替リスクをヘッジして高い利回りを実現することが可能であるとの趣旨と読み取れこそすれ、被告信託会社の金融商品は、外貨建てであっても、すべての金融商品につき、その外貨建資産のすべてにつき為替リスクのヘッジをするので、結果的に為替リスクはないとの趣旨とは読み取れない。したがって、≪証拠省略≫が、本件金銭信託につき、実際は、投資した外貨建資産の一部につき為替リスクのヘッジをしても、外貨建資産のすべてにつき為替リスクのヘッジをしないのに、すべてにつき為替リスクのヘッジをするかのような誤信を顧客に直ちに与えるものとは言えない。

2  ≪証拠省略≫には、「信託財産の安全運用を目指します。」「安全性を最優先した[国際分散投資]」「安全性に留意しながら、信託財産の一部をアジア、欧米諸国など海外で運用することにより高い実績をおさめることに成功しています。」と記載され、いささか「安全」との言葉を安易に使用しすぎている感はあるものの、一方、≪証拠省略≫には、他の文字に比して小さい文字ながらも「当商品は運用実績に基づいて配当されますので、あらかじめ予定配当率を提示することはできません。また、元本の保証、利益の補填は行いません。」といった、安全ではない事実の記載もあり、また、≪証拠省略≫には、ヘッジする、回避するといった、ヘッジに関する用語は使用されておらず、一方、「金利・為替の動向を的確にとらえた[国際分散投資]を行っているのが特長です。」「信託財産の一部をアジア、欧米諸国など海外で運用することにより高い実績をおさめることに成功しています。」といった外貨建資産にも投資することを示す記載があることからすれば、≪証拠省略≫が、本件金銭信託につき、実際は、投資した外貨建資産の一部につき為替リスクのヘッジをしても、外貨建資産のすべてにつき為替リスクのヘッジをしないのに、すべてにつき為替リスクのヘッジをするかのような誤信を顧客に直ちに与えるものとまでは言えない。なお、原告は、≪証拠省略≫に「円建て」と記載されていることも、原告に誤信を与えたと主張するが、「円建て」との言葉は「円建て実績配当型金銭信託[シティプラネット]」との言葉の中に使われているものであって、右「円建て」は、為替リスクのヘッジをすることを直ちに連想させる言葉ではないから原告の主張は採用できない。

3  ≪証拠省略≫には、「もちろん元本の安全を図ります。」と他の文字に比して大きな文字で記載されており、「元本の安全」との言葉をいささか安易に使用しすぎている感はあるが、一方、≪証拠省略≫には募集要項の元本の保証及び利益の補足欄に「元本の保証、利益の補足は行いません。運用成果についてはあらかじめ確定するものではないため、事前にお客さまに予定配当率を提示できません。」と記載され、更に、前記「もちろん元本の安全を図ります。」との記載のすぐ下に「そして、元本の安全を図るために、運用対象については六〇%以上を貸付金や短期金融商品などで運用することとし、さらに有価証券については元本の四〇%未満、うち株式運用は二〇%未満と定めました。」との記載があり、右各記載は、本件金銭信託は有価証券、株式にも投資する元本の保証がないものであること、言い換えれば安全ではないということを示しており、また、≪証拠省略≫には、ヘッジする、回避するといった、ヘッジに関する用語は使用されておらず、一方、≪証拠省略≫には、「三〇〇万円から…気軽に世界の好利回り商品へ。」「低金利時代に彗星のように登場した、この<シティプラネット>。今まで参加しにくかった海外の金融市場や、さまざまな好利回り商品にアクセスしやすくなりました。」といった外貨建商品への投資を窺わせる記載があることからすれば、≪証拠省略≫が、本件金銭信託につき、実際は、投資した外貨建資産の一部につき為替リスクのヘッジをしても、その外貨建資産のすべてにつき為替リスクのヘッジをしないのに、すべてにつき為替リスクのヘッジをするかのような誤信を顧客に直ちに与えるものとまでは言えない。

4  (1)原告は、原告本人尋問において、平成六年二月七日、被告信託会社の店舗において、訴外Cから、本件金銭信託につきヘッジして為替リスクは回避すると言われた、持参した≪証拠省略≫を示して、本件金銭信託もヘッジされるんですねと訴外Cに確かめたところ、訴外Cは、もちろんヘッジします、ヘッジで為替リスクをカバーするので、円のままの商品と同じですと説明した、その説明を受けたときパンフレット(≪証拠省略≫)に「円のまま」と記載した、訴外Cから為替リスクの心配はヘッジ云々でないとの説明を受けた、リスクヘッジにコストがかかるとの説明は受けていない、訴外Cに対し、どのようにヘッジをするのかについては尋ねていない、平成六年二月一四日に、新聞広告(≪証拠省略≫)を読み、≪証拠省略≫を片手に訴外Cに架電して、円のままと言われたのはこういうことかと言ったところ、訴外Cは、そのとおりですと答えた、と供述する。

訴外Cは、証人尋問において、平成六年二月一〇日、信濃町の喫茶店において、原告に対し、為替リスクのある商品に投資する場合には、基本としてはリスクヘッジ措置をとるが、いかなるときにヘッジ措置をとるかは本件金銭信託を運用するファンドマネージャーが判断すると説明した、ヘッジコストについては説明はしていない、円のままの商品であるとは説明していない、と証言する。

(2) 原告の供述と訴外Cの証言は、平成六年二月七日か一〇日はともかく、本件金銭信託につき為替リスクのヘッジの話は出たこと、訴外Cは原告に対し、本件金銭信託につき為替リスクのヘッジはすると言ったこと、しかしながら、どのようにリスクヘッジをするのか、リスクヘッジにコストがかかるのか等の話は出ていないことにつき一致している。

原告は、訴外Cが本件金銭信託につき為替リスクの心配はヘッジをするのでないと断定的に説明したと供述するが、右供述を裏付ける的確な証拠はない。円の金利より外貨の金利が高いことを理由に外貨建預金を投資しても、一2項記載のとおり為替リスクのヘッジにはコストがかかり、一〇〇パーセントのヘッジをすれば、右コストのために、外貨の金利と円の金利の差分は消えてしまい外貨建預金に投資したうまみはなくなってしまうことになることからすれば、本件金銭信託において、投資する外貨建資産のすべてに為替リスクのヘッジをしていては、そもそも金融商品として成り立たない。したがって、訴外Cが、原告に対し、本件金銭信託につき為替リスクのヘッジをするので、結果的に為替リスクはないというような明らかな虚偽の事実を言うことは特段の事情のない限り考え難いし、証拠上右特段の事情も窺えない。原告は、訴外Cに対し、どのようなヘッジをするのかにつき尋ねていない、リスクヘッジにコストがかかるとの説明は受けていないと供述しているところからすれば、訴外Cが、原告に対し、本件金銭信託は為替リスクにつき基本としてはヘッジをすると言ったところで、訴外Cと原告間のリスクヘッジについての話は終わり、原告と訴外C間で、それ以上詳細なリスクヘッジの話に発展しなかったとも推察される。

したがって、訴外Cの原告に対する本件金銭信託の説明につき、本件金銭信託は為替リスクにつき基本としてはヘッジするとの話はしたとしても、外貨建資産のすべてにつき為替リスクのヘッジをするとか、為替リスクの心配はヘッジをするのでないと断定的に説明したとまでは認めるに足りず、訴外Cの説明が、本件金銭信託につき、実際は、投資した外貨建資産の一部につき為替リスクのヘッジをしても、外貨建資産のすべてにつき為替リスクのヘッジをしないのに、外貨建資産のすべてにつき為替リスクのヘッジをするかのような誤信を原告に与えるものであったとは、にわかには認めるに足りない。

なお、≪証拠省略≫の左上部に「円のまま」と、原告が記載していることは認められるが、「円のまま」との用語が、為替リスクがないことを一義的に示す言葉ではなく、訴外Cも、ヘッジで為替リスクをカバーするので円のままの商品と同じですと説明した事実を否定しており、≪証拠省略≫の左上部に「円のまま」と記載されていることから、直ちに、訴外Cが、ヘッジで為替リスクをカバーするので円のままの商品と同じですと説明した事実を推認することはできない。

四  三項のとおり、被告信託会社の新聞広告(≪証拠省略≫)、パンフレット(≪証拠省略≫)あるいは訴外Cの説明が、原告に本件金銭信託は為替リスクのヘッジがなされることに因り、結果的に為替リスクが全くなくなるものと誤信させるおそれがあるものであるとは認められないが、訴外Cが、原告に対し、いかなるときにヘッジ措置をとるかは本件金銭信託を運用するファンドマネージャーが判断すると説明した事実については、これを裏付ける的確な証拠はない。

そこで、訴外Cが、為替リスクのある商品に投資する場合には、基本としてリスクヘッジ措置をとると言ったが、いかなるときにヘッジ措置をとるかにつき説明しなかったことが、説明義務に反しているかにつき判断することとする。そもそも、本件金銭信託の基本的仕組み及びその危険性につき顧客に説明すべき義務が信義則上、訴外Cにはあったとみるべきであるところ、訴外Cが、いかなるときにヘッジ措置をとるかにつき説明すべき義務があったかが問題となる。

二項のとおり、原告には、本件金銭信託が外貨建資産に投資するものであることの認識があり、本件金銭信託に為替リスクの問題があることを原告が認識していたこと、三項のとおり、被告信託会社の新聞広告(≪証拠省略≫)及びパンフレット(≪証拠省略≫)が、顧客に本件金銭信託に為替リスクが全くないとの誤解を直ちに与えるものではないこと、三項のとおり、訴外Cは、本件金銭信託の為替リスクにつき基本としてはヘッジすると言っているが、右言葉が顧客に、ヘッジするから結果的には本件金銭信託に為替リスクが全くないとの印象を直ちに与えるとは思われないことからすれば、原告が訴外Cに、ヘッジ措置につきより詳細な説明を求めたなどの特段の事情のないかぎり、いかなるときにヘッジ措置をとるか、誰がヘッジ措置をとるかにつき訴外Cが説明しなくとも、説明義務には反しないとみるべきである。なぜなら、原告は本件金銭信託につき外貨建資産にも投資することから当然為替リスクの問題があることを認識しており、一方新聞広告、パンフレット及び訴外Cの説明が、ヘッジで為替リスクを結果的に全くなくすという誤信を直ちに与えるものでない以上、仮に、原告に本件金銭信託の為替リスクが全くないとの誤信があったとしても、訴外Cが、原告が右のとおり誤信していることを虜って、原告から質問もないのに、いかなるときにヘッジ措置をとるか、誰がヘッジ措置をとるか等ヘッジ措置についてのより詳細な説明をすべき義務があったとすることは相当ではないからである。

五  一ないし四項のとおり、被告信託会社に、本件金銭信託の勧誘につき注意義務違反があったとは認められず、被告信託会社に不法行為責任はない。証拠上被告シティバンクが、被告信託会社の行為と独立別個に本件金銭信託を勧誘した事実は全く窺われないから、被告信託会社の行為に不法行為責任がない以上、被告シティバンクが、不法行為責任を負うこともない。したがって、原告の主位的請求は理由がない。

六  一ないし四項記載の事実からすれば、被告信託会社が、本件金銭信託につき、投資した外貨建資産のすべてにつき為替リスクのヘッジをすることを約した事実は認められない。一方争いのない事実等3項のとおり、被告信託会社は、本件金銭信託につき、投資した外貨建資産につき為替リスクのヘッジを全くしなかった事実もない。原告が主張する被告信託会社の債務不履行責任は、被告信託会社が、本件金銭信託につき、投資した外貨建資産のすべてにつき為替リスクのヘッジをすることを約したことを前提にするものであるが、右前提事実は認められないから、被告信託会社が、債務不履行責任を負うことはない。したがって、原告の予備的請求は理由がない。

七  したがって、原告の請求は、いずれも理由がないので、これを棄却することとする。

(裁判官 宮武康)

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